2009年11月6日金曜日

第2話「家出少女救出作戦」#5

「OK!うまく行ったね」
江島さんは、
「はあ、疲れた。もう今日だけだからねこんなかっこするの。」
と言いながらジャンパーを羽織った。眉間の皺が戻っている。
「えー、可愛いのにもったいない」
「何言ってるのよ。順平くんも所長と一緒ね。まったく男って」

その頃、ティッシュを受け取った高須は、
「なんか、すげえきれいな姉ちゃんだったな。用事がなけりゃ、絶対ナンパするんだけどな」
「そういえば、何の宣伝だ?缶コーヒーと、映画のコラボ企画か?おう、アンケートでもれなく1000円の商品券で、抽選で旅行券か。当ったら換金できそうだな。今月厳しいし、ちょっとまじめにやってみるかな?」
とポケットから携帯を取り出し、バーコードを読み込む。
メールアドレスが登録されていたので、指示通りに空メールを送った。


今、一番ほしいギフトカードはiTunesのカードですね。



お掃除が、ギフトカードであるんですねえ。
これもらったら、結構うれしいかも。

「俺だ」
所長からの連絡だ。
「今駅のホームだ。幸いまだティッシュは持っている。お、携帯を取り出した。」
「ティッシュの広告に携帯のカメラを向けている。多分アクセス行くぞ。」
「了解。返信の準備します」
俺は急いで、近くのコインパーキングにワゴン車を入れ、助手席の足下に隠した鞄からノートPCを取り出して立ち上げた。データアクセスカードでダイアルアップし、あらかじめ用意したWebメーラーにアクセスすると、案の定、メールが届いていた。
「あ、メール来てます。今返信しますね。」
急いで、あらかじめ用意したメールを返信した。
「今、返信しました。」
と返事すると、
「お、奴が携帯を取り出した。メールを受信したようだ。くそ、電車が来たぞ、しばらくは電波がとぎれる。一旦切るぞ。また電車を降りたら連絡する」
と言って電話が切れた。

高須は、携帯を開けてメールを確認した。
「お、返信が来たぞ、えーと、このリンクかな。あ、そうみたい。ティッシュのチラシと同じ感じのアンケートページが出た。」
「携帯の割に凝った画面だな。映画は金のかけ方が違うねえ。」
「ありゃ、電車がきたか。ま、ちょうどいいや電車で移動してる間に入力するか。」
高須は電車のシートに座ると、黙々と携帯電話のアンケートページに打ち込みを行った。

順平は、携帯を切ると、ワゴン車のエンジンをかけた。
今頃奴は俺が夕べ用意したキャンペーンサイトにアクセスしているはずだ。
今は、電車の中だから、アンケートに入力しているはずだ、実際にアクセスするのは、駅に着いてからだ。まだ時間があるから、コインパーキングを出て事務所に行った方が良さそうだ。
ノートPCをスリープして助手席に投げると、
「一旦事務所に戻るよ」
「ええ、早く着替えたいから、その方が良いわ」
「じゃさっさと帰ります。」

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新開地は神戸でもちょっと異色な感じのする街です。

わいらの新開地  /林喜芳/著 [本]

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昔の新開地は知らないけど、なんか懐かしい感じがする。

実践コインパーキング事業 事業の魅力、経営の実態と法的諸問題の解決 [本]

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最近、空き地がのみなみコインパーキングになってますね。
儲かっているんですかね?


≪#6へ続く≫
この小説はフィクションであり、実在する国、団体や事象、法律など実在の世界にあるものとは、一切関係ありません。
バナー広告と小説の出てくる物品が似ている場合もありますが、それが同一のものであることを保障するものではありません。

2009年11月3日火曜日

第2話「家出少女救出作戦」#4

しばし車での待機。隣には江島さん。緊張する。
「江島さん、やつの顔は覚えたかい?」
「ええ、ばっちりよ。所長から動画も見せてもらったから間違えないと思うわ。」
「そういえば、昨日はずいぶん機嫌が悪かったね。」
「そういう日もあるわよ」
「今日は普通そうで安心した。」
「そう?そうでもないわよ。こんなかっこしてるから、そっちに気になってるだけよ。さて、念のためメイクを再チェックと。」
隣でコンパクトを開けてチェックする江島さんを珍しそうに見ていた。

「順平くん、奴が動き出した。たぶん5分ぐらいでそっちに行くぞ。」
「了解。準備に入ります。」
「江島さん。聞いての通りだ。行くよ。」
江島さんは軽くうなずくと、ジャンパーと巻きスカートを取って、キャンギャルに戻った。
俺は段ボール箱、江島さんはティッシュの入った手提げ付きのカゴを持って、2番出口に向かった。
出口の脇に段ボール箱を置いて、ティッシュの入ったカゴを持ったキャンギャルがその横に立てば、どこから見てもティッシュ配りに見える。
「やつは、紺のポロシャツに濃い茶色の綿パンだ、靴は茶色の皮のスニーカー、手には茶色の手提げ鞄を持っている」

トタンテレコスキッパーポロシャツ★メンズキレイめお兄系マスト!

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奴の服装はこんな感じ

吉田カバン ポーター/ヒート・トート(ヨコ型)

吉田カバン ポーター/ヒート・トート(ヨコ型)

こんな鞄を持っている

所長からの続報が入る。
「了解」
江島さんがスタンバイしてると物欲しそうな男たちが近づくが、俺がブロックして彼女には無視してもらう。
ちょっと移動しながらの方が逃げやすいかもと、江島さんに動くように指示すると男たちもつられて動く。それを俺がブロックしていく。ようやくあきらめたらしいが、新たな男が江島さんに群がってくる。またもやブロック。
たしかに、君たちの気持ちは良く判る。キャンギャル姿の江島さんはとっても可愛い。だが、仕事のじゃまだ!退いてくれ!
そうこうしてると所長から連絡。
「江島くん、もうすぐ駅だ、次の角を回ったら駅が見えるはずだ。角をまわるまで後10秒、5、4、3、2、1、回った。」
すると、今まで眉間に皺を寄せていた江島さんが、一転して天使のような笑顔に変わった。
「はい、ただいま、新製品のキャンペーンです。今すぐ、アンケートにお答えください。商品券をはじめとした素敵なプレゼントを実施中です。」
普段より1オクターブ高い、声優似の声に切り替わった。
「こいつ女優だな。」ぼそっと順平はつぶやいた。
俺は江島さんの背後に何気なく立って江島さん越しに奴の姿を探した。
紺のポロシャツが見えた。俺は視線をはずしながら、
「前方20mぐらいに紺のポロシャツが見える」
と江島さんに伝えた。
江島さんは、聞こえていないかのごとく、返事もせずに、ティッシュ配りに集中している。
「あと、10m」
あとは、江島さんに任せるだけだ。
江島さんは一瞬手を止めて、左手に赤いティッシュを持ち替えた。
他からティッシュを要求される手には右手のカゴをぶら下げた方の手を使って、
「はいどうぞ。アンケートお願いします」
器用にオレンジ色のティッシュを配っている。
紺のポロシャツを着た高須が近づいた時、満面の笑みを浮かべて、
「はい、携帯アンケートでもれなくプレゼントですよ。どうぞ」
と、高須は、顔を上げて江島さんの顔を見た。一瞬動きが止まり、江島さんを見つめて、ようやくティッシュを受け取った。
やった!思わず俺はガッツポーズ。
高須は、名残惜しげに、後ろを振り返りながら地下鉄の階段に消えていった。
所長がその後ろをついて行く。
1タイミングおいて、
「江島さん長居は無用だ。急いで撤収。」
引き返してくる可能性を考えるともう少し粘った方が良いが、長居すると最初の頃に配ったティッシュの2次元バーコードにアクセスした人からの苦情が来かねないので、早々に退散だ。
俺は段ボールを抱えると、江島さんの前を駆け出した。
ワゴン車に飛び込むと、エンジンをかけるやいなや急発進した。


ステップワゴンって意外に大きい。
路上の長時間張り込みはこいつを使う。
ようやく慣れてきたよ。



≪#5へ続く≫
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