2009年11月24日火曜日

第2話「家出少女救出作戦」#9

「ああ、俺だ」
入り口側の部屋から男の話し声が聞こえる。

「なんだって、今からか?しょうがないなあ。こっちか?ああ、大人しいもんだよ。この様子なら、2、3時間空けても問題ないだろ。じゃ、マンションでな」

電話が切れたようだ。2人の男の話し声が聞こえる。
「おい、いくぞ。」
「え、俺もか?」
「仕方がないだろ、3人も一気に釣れたんだから、俺と奴だけじゃ手に余るから、手伝えよ」
「いいけど、ここはどうすんだ」
「どうせ、2時間もかかりゃしないし、こいつら大人しいもんだろ。」
「ああ、そうだな。さっきやったばかりだから、2時間は大丈夫だろ。」

という話し声が聞こえたと思ったら、入り口側の部屋から真ん中の部屋に2人の男が入ってきた。茶髪に皮ジャンを着たパンクファッションの学生っぽい男とオールバックにブレザーを着た若い男だ。

茶髪の男がリビングに横たわっている女の顔をのぞき込んだ。
寝ていることを確認すると、左の奥の部屋に入った。
奥の部屋の様子は見えないが、しばらくしたら茶髪の男が出てきて、リビングで待っていたオールバックの男に合図した。
そして、二人一緒に入り口側の部屋に戻って扉を閉めた。
その後、鍵を掛ける音がした。
「オッケーじゃさっさと行くか」とこもった声が聞こえた後入り口のドアが開く音がした。

小声で実況中継していた俺だが、あわてて、コンクリートマイクと、ファイアースコープのセットをはずしてポケットに突っ込むと、音を立てないように慎重に足場を降りた。
「どうやら奴ら、出かけるみたいだよ」
「見つからないように気をつけて、慎重にね」
俺は、倉庫の中が覗ける窓に鏡を向けて奴らの動きを監視した。

2人の男たちは、奥の倉庫の方へ向かった。
「倉庫の仕切りの扉を開けて向こう側に行ったよ」
俺が江島さんに伝えると、
「危ないから、十分距離をとって、やつらの動きを監視してね」
と答える。
俺は、十部に時間をとってから慎重に倉庫の中に入り、奥の倉庫の方に向かった。
シャッター音が聞こえる。
奥の倉庫との境にある扉の窓越しにランクルが見えた。
「車がないと思ってたけど、奥の倉庫にランクルを隠していたよ」

「もし可能なら、やつらの写真を撮っておいて」と江島さん
ちょっと遠いが仕方ない。めいっぱいズームして、扉の窓越しに2人の男を撮った。
しばらくすると前方のシャッターが前回になり、車が走り出した。
なんとかナンバーが見えないかと車を撮ってみた。流石に確実にナンバーを見るために隣の倉庫に移動するリスクを犯すことはできなかった。
倉庫の前で、しばらく停止していたが、シャッターが降りるのを確認すると、車は走り去ってしまった。



こだわる人の


でこぼこ道もバリバリ走ります。


プラモ作りは楽しいねえ。


「行ちゃったよ。たぶん高須が捕まえた新たな犠牲者のところに行ったかな?」
「そうかもね。新たな犠牲者は気になるけど、どうせ例のマンションに連れ込むんでしょうから、そっちは後で手を打ちましょう」と江島さん。
「今は、ここを片づけるのが先よ。さっき聞いた話では、もう奴らの仲間は残っていないはずよね。一気にプレハブ小屋を捜索しましょ。時間も無いことだし、手荒にいきましょ」

「え、でも鍵はかけてたよ。どうやって開けるの?」
「じゃとりあえず、入り口の扉まで行ってちょだい。作業カバンにドライバがあるはずだから、それを鍵穴に入れてね。その近くに何かドライバのお尻を叩くのにハンマーの変わりになるものないかしら?」
「おもり代わりに使われていような鉄骨の切れ端があるけど、これでいいかな?」
「上等よ。ドライバーを出して入り口の鍵穴に入れて、ドライバーのお知りを目いっぱい鉄骨でたたいて頂戴」
一時期はやっていたバンピングと呼ばれる鍵のクラッキング方法らしい。
閑静な住宅地では近所の目も気になるが、ここは港の巨大倉庫の中。倉庫の周辺もほぼ無人。ちょっとやそっと音を立てても誰も気がつかない。
特にこの手の安直な鍵には有効だってさ。ガン、ガン、ガンと叩いて、ドライバを力任せにねじる。
ちょっと抵抗があったが、
「お、マジ開いたよ」
「ね、言ったでしょ」

「入り口のすぐ中の部屋は事務所のような感じだな」
事務机が2つあり、奥には応接セットがあり、さらにその奥に扉がある。
「ここには誰もいないみたいだ。次の部屋に行ってみる」
扉にはこの部屋から鍵がかけられていた。
解錠して、急いで奥の扉を開けて、中の部屋に入って行った。
まさに、さっきファイバースコープで見た光景だ。
テレビの前に寝転がっているの女性を回り込んでみた。
どうやら寝ているようだ。
「残念、真ん中の部屋の女性は南条ゆかりさんではないよ」
「そう。じゃ最後の部屋ね」
「うん。たぶんそうだろ」
と返事しながら奥の部屋に進む。鍵はかかっていなかった。

奥の部屋に入ってみる薄暗いが寝室のようだ。
奥にダブルベッドが2つあり、右側に2人下着姿の女性が寝ている。左に男性が目隠しと猿轡をかまされて縛られている。
「男?所長じゃやない?」
あわてて紐を解こうとするが、硬くて解けない。あきらめて作業バッグからナイフを取り出して切る。
「いやー、助かったよ。順平くん。さすがマジにやばかった」
「なんとか無事でよかった。これだけ監禁の証拠があれば、警察も動くでしょ」
「ああ、被害者の俺もいるから十分だ。ところで南条さんは?」
「この二人うちどっちかでしょ?って、違う、南条さんじゃない。じゃ、彼女はいったいどこに?」
2人の女性を見てみる。
「おい、大丈夫か?」
揺り動かすとかすかに目を開けたが、こちらを見ていない。やばいな。
所長は俺の携帯で唯一気心の知れた水上警察の目暮警部に連絡を入れた。事前に状況は伝えておいたから迅速に動いてくれるだろう。ついでに救急と事務所に連絡を入れた。

先ほどの2人の男たちがランクルで高須のところへ向かったことを所長に伝えると、
「くそ、絶対につかまえてやる」
目暮警部にそのことを伝えた後、高須の尾行をお願いしていたヘルプの尾藤さんに連絡した。
「滝沢だ。尾藤くん、そっちの状況はどうだ?」
「高須が3人の女の子を連れてホテルに入りました。1時間ほど前です。今はそのホテルの前で張っています。」
「了解。いまメールで画像を送る。その画像の2人の男がランクルに乗って間もなく到着するはずだ。水上警察にも連絡を入れたからすぐに到着するはずだから、やつらの居場所を伝えてくれ。」
「了解。」

だが、肝心の依頼者の娘、南条ゆかりさんの姿がどこにも見えない。


こんな大きさのダブルベッドが2つ


作業員の作業バッグはこれ


タフなのは、この電工ナイフです。


≪#10へ続く≫
この小説はフィクションであり、実在する国、団体や事象、法律など実在の世界にあるものとは、一切関係ありません。
バナー広告と小説の出てくる物品が似ている場合もありますが、それが同一のものであることを保障するものではありません。

2009年11月17日火曜日

第2話「家出少女救出作戦」#8

「ええ?どういうこと?」
問いかける俺に、首を振る江島さん。
「呼び出し音は鳴るけど、出ないのよ。今、手が離せないのかもしれないわ」

「どうするの?せっかく手がかりが見つかったのに」
という俺に対して、江島さんはにっこりと微笑みながら
「あら、ここに立派なエージェントがいるじゃない」
と、俺の肩を叩いた。
「え、俺?そんな無理だよ」
という俺を無視して、江島さんは
「えっと、港湾なら作業着のほうが目立たないから、紺の作業着一式ね。」
と、倉庫から変装セットを持ってきた。
「帽子も用意したから、太目のフレームのメガネで印象が変わるわ。」
「作業バッグに、道具一式入れといたから。使い方は後で説明するわね。」
「ほら、さっさと着替える。はい、ヘッドセットもして、ウエストポーチに携帯入れて忘れずに」
「え、でも」
とか言いながらも、なんとなく勢いに押されて着替え始める俺。
「じゃ、よろしくね」といって事務所を追い出された俺。
「どうするかなあ。現場なんて怖いしなあ。どっちかというとデスクワークのほうが」
と独り言を言う俺に、ヘッドセットから突込みが入る。
「こらこら、ぶつくさ言ってないでさっさと車でポーアイまで行って。向こうに到着するまでに作戦考えとくから。」
という江島さんの声にしぶしぶ車を走らせる俺であった。

「このブロックのはずだよな。」
倉庫のあるブロックの端で車を止めた。
カーナビの地図で現在位置を確認し、携帯の地図も確認する。
広い大きな倉庫と巨大なクレーン、広く空いた護岸へ通じる空き地が見える。
「そこから先は、車だと見つかるから、歩きでよろしく」と江島さんの声。
「了解」と俺も答える。

どうやらあたりに人気は無さそうだ。
「人影はなさそうだけど」
「じゃさっさと倉庫のほうに向かってね」

慎重に物陰をつたって倉庫あるほうに進んでいく。

「ありゃ、道路から倉庫まで広い駐車スペースで隠れるところがないよ」
「そう、じゃ、あんまりこそこそせずに、堂々と倉庫まで歩いてね」
背中が丸まっていた俺は、背筋を伸ばして、隠れる物陰がないのを気にしながらも怪しまれないように進む。
一番近くの倉庫に近づくと、大きなシャッターの隣に人が出入りするための扉を見つけた。
「北西の角に扉があるよ」
「扉に窓はある?」
「ああ、あるけど」
「じゃ、扉の窓の中から見られないように近くまで進んで、窓の中を鏡を使って確認してね」
江島さんの用意してくれた作業バッグの中に100均で売ってそうな折りたたみの手鏡がある。
「ふーん」
と思いながら、扉の正面を大きく迂回して扉に近づいた。
折りたたみの手鏡を開いて、扉の窓に近づけ、中の様子を探ってみる。
「うん、誰もいないみたいだ」
「そう。念のため、自分お目でも確認してね」
窓の端からそっと確認してみる俺。
「誰もいないみたいだ。何もなくてがらーんとしている」
「じゃ、扉開けてみて。音がしないように気をつけてね」
そっと扉を開けてみる。鍵はかかっていなかった。

「中に入ったよ。倉庫の中はいくつかのブロックに区切られているみたい」
手前のブロックには何もなくフォークリフトで運ぶのに使う木の土台がいくつか積み上がられているだけだ。

「あれ?おかしいな」
「どうしたの?」
「いや、何か人がいる場所があるかと思ったけど、何もないから変だなって」
と何もないことを不振に思いながら、次のブロックに行く。

次のブロックもそこも荷物はほとんどない。
よく見るとこのブロックの奥の壁に何かある。
倉庫の壁にプレハブの小屋のようなものが立っているようだ。
建物の内側に茶色くくすんだ同系色の小屋だからか、すぐには気が付かなかった。
「これか?」
「何か見つけたの?」
と問いかける江島さんに小声で
「プレハブの小屋が倉庫の中にあるのを見つけたんだ」
「あら、目いっぱい怪しいわね。きっとそれよ。まずはプレハブの状況を教えて」

俺は慎重に小屋の方に移動しながら話を続けた。
「倉庫の内側に茶色のプレハブ小屋がたぶん、3棟横に連結された形であるよ。倉庫の向こう側の壁とプレハブの壁はくっついているみたいだ。」

足音が妙に反響して誰かに聞かれないか気になる。

あれ?妙だ
「窓があったみたいだけど、そこが鉄板でふさがれてるみたい。ボルトで固定されてるよ」
「軟禁目的でふさがれたのかもね。プレハブの中から見られないか注意してぐるっと周囲を見てもらえる?入り口とか、窓とか開いている部分を確認してちょうだい」
「了解」

江島さんの指示に従って、プレハブの周囲をぐるっと回ってみる。
どの窓も塞がっているようだ。

イナバ物置 ドマール FX-80HDL-2 土間タイプ 一般型 2連棟

イナバ物置 ドマール FX-80HDL-2 土間タイプ 一般型 2連棟

ちょっと違うが、倉庫の中に、
プレハブ住宅があるイメージです。

【重機ラジコン】超小型リアルフォークリフト■新品 自動車

【重機ラジコン】超小型リアルフォークリフト■新品 自動車

倉庫にはフォークリフトが
つきものです。

プレハブの向こう側の壁は倉庫の壁に接している。
「倉庫の外に出ないと1周できないけどどうする?」
「プレハブの近くに倉庫の扉はあるかしら?」
「ああ、ちょうど倉庫の右側にあるよ」
「じゃ、扉の向こうに気をつけて、倉庫の外側も見てきて頂戴」
「了解」
ここの扉も鍵がかかっていなかった。
扉を開けて倉庫の外側に出る。

「ああ、プレハブと接している部分の倉庫の窓枠がはずれてるよ。そこだけプレハブの外壁が外に出てる。そ換気扇とガスの給湯器がついるよ」
「じゃあ、やっぱり怪しいわね」
「そのすぐ下にはエアコンの室外機も置いてあるよ。ということはお風呂かシャワーもあって、それなりに生活できるってことか」
「そうみたいね」
「どうやら、入り口は、倉庫の内側、左側のプレハブの1カ所のみみたいだよ。」
「じゃ、先ずは中の様子をコンクリートマイクを使って調べてみて。作業バッグにコンクリートマイクとヘッドセットが入っているはずよ」
「了解」
俺は、作業バッグからコンクリートマイクを取り出すと、倉庫の外側からプレハブの壁がむき出しになった部分にコンクリートマイクを当ててみる。そこから伸びたヘッドセットを携帯のヘッドセットとは反対側の耳に架ける。
「あ、テレビテレビの音が聞こえる。他に人の話し声とかは聞こえないよ」
しばらく聞いていたが、変化はなさそうだ。
「変化なさそうだねえ」
と俺が言うと、江島さんは
「じゃ中を覗いてみましょう。換気扇の穴から中が覗けるはずよ」
「え、ちょっと換気扇の穴は高すぎるよ」
「何かそこら辺に足場になりそうなものはないの?」
「フォークリフトの木製パレットがあるから高さだけなら問題なけど、覗くのは難しくない?」
という俺に江島さんは、
「作業バッグにファイバースコープも入れているから大丈夫って。さっさと足場を作ってね。目安は、足場の上に座って、換気扇の穴が目の前に来るぐらいまで積んでね」
「え、結構な高さまでつむんだな」
と俺はしぶしぶ周辺の木製パレットを移動して換気扇の下に積み上げていく。
1.5mほど積み上げて、パレットに座った状態で換気扇に届く高さになった。
「パレットを積み上げたよ。上に座って、換気扇の穴が目の前にある。穴は覗けるけど、この角度だと、天井しか見えないよ。どうしたらいいの?」
という俺に対して、江島さんは
「じゃ、指にハンカチを巻いて、一気に換気扇の羽根を止めて、ハンカチで固定してちょうだい」
「うわー痛そう」
という俺に、江島さんは、
「一気に止めればそれほど痛くないは、覚悟を決めて、一気にね」
まったく、人事だと思って。
俺は、作業かばんの中からハンカチを2枚取り出し、1枚を指に巻いて換気扇の羽根を一気に止める。急に風切音が消えた。
静かになった周囲には、エアコンの運転音とテレビの声が聞こえている。話し声は聞こえない。
気づかれていない様だ。
換気扇の隙間から覗くが人の気配は無い。手早くもう1枚のハンカチで換気扇の羽根を固定した。
「換気扇止めたよ」
「じゃ、作業かばんからファイバースコープを取り出して、カメラとヘッドマウントディスプレイにつないで装着してね」
作業かばんからファイバースコープとカメラを取り出して、接続する。さらにカメラの出力端子に、ヘッドマウントディスプレイに接続する。
このヘッドマウントディスプレイは薄型でかけていても周囲の様子がわかる。
ファイバースコープを慎重に換気扇の隙間に入れて中の様子を伺った。
所長の知り合いの内視鏡を作っているメーカーに特別に作ってもらったファイバーの先の向きが手元で操作できるすぐれものらしい。
内視鏡ほどの解像度はないが、640×400ぐらいの解像度はでる。

「準備ができたら、ファイバースコープの先端を換気扇の穴の隙間に入れて見てちょうだい」
言われたとおりにして見てみると、右奥の部屋の隅にテレビがあり、1人の下着姿の女性が横になっているのが見えた。
「あ、見えたよ、女の人が真ん中の部屋に下着姿で横になっているよ。向こう向きだから誰かわかんないけど。動きもないし、寝てるかも」
「了解。寝てそうでも油断は禁物よ。音を立てないように気をつけて。さっきのコンクリートマイクも壁に固定して聞いてみて」
コンクリートマイクをガムテープで固定するとまた、テレビの音が聞こえてきた。
どうやらこの部屋はリビング兼キッチンのような感じに使われているようだ。
右半分が絨毯の上に両方の部屋との間には扉があるが、入り口側の方は扉が開いている。
「入り口側の扉が開いていて、中がちょっとだけ見えるけど、誰かいるみたいで、床に影が動いているように見えるよ」
しばらく部屋の中を観察していた。
携帯の着信音が鳴った。一瞬自分かと思ってひやっとしたが、どうやら入り口側の部屋から聞こえてくる。

フジミ Dup-35 1/32 パレット プラモデル(U9574)

フジミ Dup-35 1/32 パレット プラモデル(U9574)

滝沢のおっちゃんは、こいつ(フォークリフトのパレット)をがんばって積み上げました。




≪#9へ続く≫
この小説はフィクションであり、実在する国、団体や事象、法律など実在の世界にあるものとは、一切関係ありません。
バナー広告と小説の出てくる物品が似ている場合もありますが、それが同一のものであることを保障するものではありません。