2009年9月8日火曜日

第1話「探偵事務所の機密情報を奪還せよ」#2

そういえば、つい先月も滝沢のオッサンからWebサイトを運営している依頼者の相談にのったことがあった。
依頼者の話では、中国のからと思われるパケットが大量にきて、トップページの表示にすら非常に時間がかかる状態で、本来のお客さんがサイトに入れなくて苦情がきて判ったそうだ。
プロバイダーに相談したら、該当するIPを遮断するようにアドバイスされたそうだ。
一瞬効果は上がったが、また違うIPから攻撃され、またそのIPを遮断するといった繰り返しになり、本業に集中できなくて困っているいうことらしい。
俺は、滝沢のオッサンに、効果的な解決策を教えてやった。

「中国からの攻撃っていうのがはっきりしているのならば、『天安門事件』とか、『ウイグル人弾圧』とか。『チベット暴動』とか、中国政府が中国国民に見せたくないような記事を検索できそうなキーワードをトップページに仕込んでください。それだけで中国からのアクセスが減るはずです。」
「へえ、そんなもんで効果があるの?」
「ええ、良い意味でも悪い意味でも中国は中央統轄の機能が充実してますから。そういうキーワードを入れれば、中国国民に見せたくないサイトということで中国政府がアクセスできないようにしてくれます。」
「あ、じゃあ、不正アクセスだけじゃなくって、中国からのアクセス全部止めちゃうってことかい?」
「ええ、そうです。そのサイトも日本人向けで中国からのアクセスは必要なさそだから、いいんじゃないですか?」
「じゃ、早速依頼者に伝えて試してみるよ。ありがとさん。」

その一言のアドバイスで劇的に効果が現れたらしい。
「すごいなあ、順平くん。たった1行キーワードを入れて半日待ったらピタッと攻撃が止まったってよ。いやー流石ITの人は違うなあ。俺じゃ手も足も出なかったのに一瞬で解決しちゃうんだもんなあ。」
感謝の意味か、滝沢のオッサンは飲み放題、食い放題の夢のパラダイスツアーに無料招待してくれた。
またその手の相談かな?できたら今度は現金が良いなと思いながら滝沢のオッサンの後をついて、狭い事務所への階段を上って行った。


そういえば知り合いにウイグルから来た人いたなあ。
心配だね。




中国は力があるからなあ。
いったい、どっちに向いて進むんでしょうね?




より大きな地図で 順平マップ を表示
滝沢探偵事務所の地図(地図上の現実の場所、建物等とは一切関係ありません)

事務所といっても、滝沢のオッサンと事務の女の子がいるだけなんだけど。確か、江島恵梨子さんっていったっけ?
20歳すぎの元気そうな可愛い女の子だ。紺の簡素な事務服だが、かわいらしく感じる。
「いらっしゃい」
といって、コーヒーを入れてくれた。
「ども」
と良いながら受け取る。この事務所にくるのは3回目ぐらいだが、前は江島さんがここにつとめる前だから、初めて話した。ちょっと緊張する。
「で、頼みたい仕事だけどね。」
唐突に滝沢のオッサンが話を進める。

「詳 しいことは言えないんだけど、うちの仕事で機密情報を使って現金を強請られている事件があってね。依頼者からのたっての希望で警察沙汰にしたくないということでうちに依頼がきたんだ。その仕事は大体調査が 終わって、相手との交渉を残すだけっていう状況なんだけど、その調査をやっている過程で、どうやらうちの事務所の機密情報も盗まれているってことが判った んだ。できればそっちの問題も一気に解決したいんだけど、証拠がこれ以上つかめなくて困ってたんだよ。で、順平くんのこと思い出してさあ。 何とかする方法ないか教えてもらえないかと思って」
「なんとかって言われても俺探偵やったことないし滝沢さんの方がそういうのは得意なんでしょ。」
「普通はそうなんだけど、ITが絡むとちょっとね。順平くんってたしかIT系の会社だったよね」
「そりゃ、IT系の会社ですけど、何の役に立つんですか?」
「まあ、聞いてくれ。このマンションなんだが、503号室がやつらのヤサだ。」
と住所を書いた紙とマンションの写真を渡してくれた。
「彼らのマンンションには、最低でも3台のPCが置かれていて、どうやらそのPCには、その手の情報が入っているようなんだが、仮に部屋に侵入してもすべてのPCを持ち出すのは不可能だし、短時間に持ち出すデータを特定するのは流石に俺でも無理だ。」
「えー俺に泥棒のまねごとをしろってことですか?」
「まあ、平たく言えば、そうだが実際に部屋に侵入しなくてもネットから侵入する方法はないもんだろうか?その辺がITに詳しい順平くんに聞きたかったんだけどね。」
「まあ、確かに方法はない訳じゃないけど、そんなことしたらネットからでも不正アクセス禁止法にひっかかるんですよ。」
「判っている。ただ、不正を働いているのは、やつらなんだ。その証拠をつかむ必要があるんだ。君に違法なことを承知でお願いするんだから、前金で20万、残り成功報酬で30万でどうだろう?もちろん必要経費は別だ。」
「うーん、しばらく考えさせてください。」
さすがに即答できずに、明日までの猶予をもらってその場を立ち去った。


江島さんは個人事務所では珍しく制服姿。
これがまたかわいい。


ああ、不正アクセス禁止法ってとってもザルですね。
まあないよりましかも。


ああ、萌えちゃいます。
社会科の教科書はこんなのにすればいいのに。

≪#3へ続く≫

この小説はフィクションであり、実在する国、団体や事象、法律など実在の世界にあるものとは、一切関係ありません。
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2009年9月1日火曜日

第1話「探偵事務所の機密情報を奪還せよ」#1

「まじ少ねえ」
夏のボーナスの明細をみながら順平はつぶやいた。
俺は神野順平。28歳、IT企業のサラリーマン。2008年末からの景気悪化の影響を受けて、順平の会社ももろにその影響を受けて仕事が減った。
「多少の覚悟はしていたのだが、これほど少ないとは。去年の半額以下だよ。」
神戸で一人暮らしをしている順平だが、去年の暮れから冷蔵庫が故障し、テレビも調子が悪くなって買い換えた。
それもボーナスをあてにして。
もうちょっとランクを落とせば良かったのだが、長年我慢を重ねたブラウン管テレビからの買い換えでつい大画面で録画のできる人気一番モデルにしてしまった。
困った。ボーナスの支払いは、車のローンも入れて40万。で、ボーナスは15万。どう考えても足らない。
消費者ローンで借りて冬のボーナスで支払う手もあるが、相変わらず景気も悪いし、冬のボーナスの金額もあてにならない。


俺の念願の42インチ液晶テレビ。  
はぁこんなんで映画見るのが夢
だったんだ。


そりゃ好きで金借りる訳ちゃうんで。
誰だって金に余裕があれば借りないよ。

俺の勤める会社は、大阪にある30人程度の派遣がメインのIT企業。
いろいろの会社を渡り歩くが、業種が違うとずいぶんと覚えなければいけないことが増えるので、まあそれなりに経験が積めて良いかなぐらいだった。
でも2008年末からの不況のあおりで、俺も元の開発現場から離れ、なんとか次の職場に入ったが、そこの来期延長も難しそうかな?
ということは、次のボーナスが満額出るのは難しいな。
こりゃ何かバイトでもやらないとまずいかなと思いつつ、近所のコンビニでアルバイトニュースを眺めていた。
「よう、順平くん」
後ろを振り返ると、近所の滝沢探偵事務所の所長、滝沢のオッサン53歳だ。
大学時代に通っていたジャン荘で知り合い、稼がせて頂いた。今でもたまに金曜日のオールナイトマージャンで、貢いで頂いている。
大勝ちしたかと思うと、見え見えの手に振り込んで大負けしたり、ムラが激しい。かき回すだけかき回して、結局はマイナスで終わるタイプ。
「暇そうだね」
滝沢のオッサンには言われたくないよ。いつも暇そうに喫茶店やパチンコ屋に入り浸ってるみたいだし、仕事している姿を見たことない。
「ええ、まあ」
と当たり障りなく返事しておく。
「この前は世話になったね。助かったよ。依頼者も喜んでくれたよ。ところで、またそんな感じのバイトしてみない?」
ええ?意外な一言
「バイトって何ですか?俺、滝沢さんの仕事みたことないし」
「なーに、簡単な仕事だよ。ITがらみでちょっとばかし相談にのって欲しいんだけど。ここじゃ何だし、今から事務所に来ないか?」


滝沢のオッチャンが大好きな海物語。
シリーズ全制覇だそうな。  
暇だねえ。


滝沢のオッチャンとは無縁の名探偵。
この小説の名探偵もどっちかというと迷う方だと思う。

≪#2へ続く≫
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