2009年9月1日火曜日

第1話「探偵事務所の機密情報を奪還せよ」#1

「まじ少ねえ」
夏のボーナスの明細をみながら順平はつぶやいた。
俺は神野順平。28歳、IT企業のサラリーマン。2008年末からの景気悪化の影響を受けて、順平の会社ももろにその影響を受けて仕事が減った。
「多少の覚悟はしていたのだが、これほど少ないとは。去年の半額以下だよ。」
神戸で一人暮らしをしている順平だが、去年の暮れから冷蔵庫が故障し、テレビも調子が悪くなって買い換えた。
それもボーナスをあてにして。
もうちょっとランクを落とせば良かったのだが、長年我慢を重ねたブラウン管テレビからの買い換えでつい大画面で録画のできる人気一番モデルにしてしまった。
困った。ボーナスの支払いは、車のローンも入れて40万。で、ボーナスは15万。どう考えても足らない。
消費者ローンで借りて冬のボーナスで支払う手もあるが、相変わらず景気も悪いし、冬のボーナスの金額もあてにならない。


俺の念願の42インチ液晶テレビ。  
はぁこんなんで映画見るのが夢
だったんだ。


そりゃ好きで金借りる訳ちゃうんで。
誰だって金に余裕があれば借りないよ。

俺の勤める会社は、大阪にある30人程度の派遣がメインのIT企業。
いろいろの会社を渡り歩くが、業種が違うとずいぶんと覚えなければいけないことが増えるので、まあそれなりに経験が積めて良いかなぐらいだった。
でも2008年末からの不況のあおりで、俺も元の開発現場から離れ、なんとか次の職場に入ったが、そこの来期延長も難しそうかな?
ということは、次のボーナスが満額出るのは難しいな。
こりゃ何かバイトでもやらないとまずいかなと思いつつ、近所のコンビニでアルバイトニュースを眺めていた。
「よう、順平くん」
後ろを振り返ると、近所の滝沢探偵事務所の所長、滝沢のオッサン53歳だ。
大学時代に通っていたジャン荘で知り合い、稼がせて頂いた。今でもたまに金曜日のオールナイトマージャンで、貢いで頂いている。
大勝ちしたかと思うと、見え見えの手に振り込んで大負けしたり、ムラが激しい。かき回すだけかき回して、結局はマイナスで終わるタイプ。
「暇そうだね」
滝沢のオッサンには言われたくないよ。いつも暇そうに喫茶店やパチンコ屋に入り浸ってるみたいだし、仕事している姿を見たことない。
「ええ、まあ」
と当たり障りなく返事しておく。
「この前は世話になったね。助かったよ。依頼者も喜んでくれたよ。ところで、またそんな感じのバイトしてみない?」
ええ?意外な一言
「バイトって何ですか?俺、滝沢さんの仕事みたことないし」
「なーに、簡単な仕事だよ。ITがらみでちょっとばかし相談にのって欲しいんだけど。ここじゃ何だし、今から事務所に来ないか?」


滝沢のオッチャンが大好きな海物語。
シリーズ全制覇だそうな。  
暇だねえ。


滝沢のオッチャンとは無縁の名探偵。
この小説の名探偵もどっちかというと迷う方だと思う。

≪#2へ続く≫
この小説はフィクションであり、実在する国、団体や事象、法律など実在の世界にあるものとは、一切関係ありません。
バナー広告と小説の出てくる物品が似ている場合もありますが、それが同一のものであることを保障するものではありません。

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