2009年11月24日火曜日

第2話「家出少女救出作戦」#9

「ああ、俺だ」
入り口側の部屋から男の話し声が聞こえる。

「なんだって、今からか?しょうがないなあ。こっちか?ああ、大人しいもんだよ。この様子なら、2、3時間空けても問題ないだろ。じゃ、マンションでな」

電話が切れたようだ。2人の男の話し声が聞こえる。
「おい、いくぞ。」
「え、俺もか?」
「仕方がないだろ、3人も一気に釣れたんだから、俺と奴だけじゃ手に余るから、手伝えよ」
「いいけど、ここはどうすんだ」
「どうせ、2時間もかかりゃしないし、こいつら大人しいもんだろ。」
「ああ、そうだな。さっきやったばかりだから、2時間は大丈夫だろ。」

という話し声が聞こえたと思ったら、入り口側の部屋から真ん中の部屋に2人の男が入ってきた。茶髪に皮ジャンを着たパンクファッションの学生っぽい男とオールバックにブレザーを着た若い男だ。

茶髪の男がリビングに横たわっている女の顔をのぞき込んだ。
寝ていることを確認すると、左の奥の部屋に入った。
奥の部屋の様子は見えないが、しばらくしたら茶髪の男が出てきて、リビングで待っていたオールバックの男に合図した。
そして、二人一緒に入り口側の部屋に戻って扉を閉めた。
その後、鍵を掛ける音がした。
「オッケーじゃさっさと行くか」とこもった声が聞こえた後入り口のドアが開く音がした。

小声で実況中継していた俺だが、あわてて、コンクリートマイクと、ファイアースコープのセットをはずしてポケットに突っ込むと、音を立てないように慎重に足場を降りた。
「どうやら奴ら、出かけるみたいだよ」
「見つからないように気をつけて、慎重にね」
俺は、倉庫の中が覗ける窓に鏡を向けて奴らの動きを監視した。

2人の男たちは、奥の倉庫の方へ向かった。
「倉庫の仕切りの扉を開けて向こう側に行ったよ」
俺が江島さんに伝えると、
「危ないから、十分距離をとって、やつらの動きを監視してね」
と答える。
俺は、十部に時間をとってから慎重に倉庫の中に入り、奥の倉庫の方に向かった。
シャッター音が聞こえる。
奥の倉庫との境にある扉の窓越しにランクルが見えた。
「車がないと思ってたけど、奥の倉庫にランクルを隠していたよ」

「もし可能なら、やつらの写真を撮っておいて」と江島さん
ちょっと遠いが仕方ない。めいっぱいズームして、扉の窓越しに2人の男を撮った。
しばらくすると前方のシャッターが前回になり、車が走り出した。
なんとかナンバーが見えないかと車を撮ってみた。流石に確実にナンバーを見るために隣の倉庫に移動するリスクを犯すことはできなかった。
倉庫の前で、しばらく停止していたが、シャッターが降りるのを確認すると、車は走り去ってしまった。



こだわる人の


でこぼこ道もバリバリ走ります。


プラモ作りは楽しいねえ。


「行ちゃったよ。たぶん高須が捕まえた新たな犠牲者のところに行ったかな?」
「そうかもね。新たな犠牲者は気になるけど、どうせ例のマンションに連れ込むんでしょうから、そっちは後で手を打ちましょう」と江島さん。
「今は、ここを片づけるのが先よ。さっき聞いた話では、もう奴らの仲間は残っていないはずよね。一気にプレハブ小屋を捜索しましょ。時間も無いことだし、手荒にいきましょ」

「え、でも鍵はかけてたよ。どうやって開けるの?」
「じゃとりあえず、入り口の扉まで行ってちょだい。作業カバンにドライバがあるはずだから、それを鍵穴に入れてね。その近くに何かドライバのお尻を叩くのにハンマーの変わりになるものないかしら?」
「おもり代わりに使われていような鉄骨の切れ端があるけど、これでいいかな?」
「上等よ。ドライバーを出して入り口の鍵穴に入れて、ドライバーのお知りを目いっぱい鉄骨でたたいて頂戴」
一時期はやっていたバンピングと呼ばれる鍵のクラッキング方法らしい。
閑静な住宅地では近所の目も気になるが、ここは港の巨大倉庫の中。倉庫の周辺もほぼ無人。ちょっとやそっと音を立てても誰も気がつかない。
特にこの手の安直な鍵には有効だってさ。ガン、ガン、ガンと叩いて、ドライバを力任せにねじる。
ちょっと抵抗があったが、
「お、マジ開いたよ」
「ね、言ったでしょ」

「入り口のすぐ中の部屋は事務所のような感じだな」
事務机が2つあり、奥には応接セットがあり、さらにその奥に扉がある。
「ここには誰もいないみたいだ。次の部屋に行ってみる」
扉にはこの部屋から鍵がかけられていた。
解錠して、急いで奥の扉を開けて、中の部屋に入って行った。
まさに、さっきファイバースコープで見た光景だ。
テレビの前に寝転がっているの女性を回り込んでみた。
どうやら寝ているようだ。
「残念、真ん中の部屋の女性は南条ゆかりさんではないよ」
「そう。じゃ最後の部屋ね」
「うん。たぶんそうだろ」
と返事しながら奥の部屋に進む。鍵はかかっていなかった。

奥の部屋に入ってみる薄暗いが寝室のようだ。
奥にダブルベッドが2つあり、右側に2人下着姿の女性が寝ている。左に男性が目隠しと猿轡をかまされて縛られている。
「男?所長じゃやない?」
あわてて紐を解こうとするが、硬くて解けない。あきらめて作業バッグからナイフを取り出して切る。
「いやー、助かったよ。順平くん。さすがマジにやばかった」
「なんとか無事でよかった。これだけ監禁の証拠があれば、警察も動くでしょ」
「ああ、被害者の俺もいるから十分だ。ところで南条さんは?」
「この二人うちどっちかでしょ?って、違う、南条さんじゃない。じゃ、彼女はいったいどこに?」
2人の女性を見てみる。
「おい、大丈夫か?」
揺り動かすとかすかに目を開けたが、こちらを見ていない。やばいな。
所長は俺の携帯で唯一気心の知れた水上警察の目暮警部に連絡を入れた。事前に状況は伝えておいたから迅速に動いてくれるだろう。ついでに救急と事務所に連絡を入れた。

先ほどの2人の男たちがランクルで高須のところへ向かったことを所長に伝えると、
「くそ、絶対につかまえてやる」
目暮警部にそのことを伝えた後、高須の尾行をお願いしていたヘルプの尾藤さんに連絡した。
「滝沢だ。尾藤くん、そっちの状況はどうだ?」
「高須が3人の女の子を連れてホテルに入りました。1時間ほど前です。今はそのホテルの前で張っています。」
「了解。いまメールで画像を送る。その画像の2人の男がランクルに乗って間もなく到着するはずだ。水上警察にも連絡を入れたからすぐに到着するはずだから、やつらの居場所を伝えてくれ。」
「了解。」

だが、肝心の依頼者の娘、南条ゆかりさんの姿がどこにも見えない。


こんな大きさのダブルベッドが2つ


作業員の作業バッグはこれ


タフなのは、この電工ナイフです。


≪#10へ続く≫
この小説はフィクションであり、実在する国、団体や事象、法律など実在の世界にあるものとは、一切関係ありません。
バナー広告と小説の出てくる物品が似ている場合もありますが、それが同一のものであることを保障するものではありません。

2009年11月17日火曜日

第2話「家出少女救出作戦」#8

「ええ?どういうこと?」
問いかける俺に、首を振る江島さん。
「呼び出し音は鳴るけど、出ないのよ。今、手が離せないのかもしれないわ」

「どうするの?せっかく手がかりが見つかったのに」
という俺に対して、江島さんはにっこりと微笑みながら
「あら、ここに立派なエージェントがいるじゃない」
と、俺の肩を叩いた。
「え、俺?そんな無理だよ」
という俺を無視して、江島さんは
「えっと、港湾なら作業着のほうが目立たないから、紺の作業着一式ね。」
と、倉庫から変装セットを持ってきた。
「帽子も用意したから、太目のフレームのメガネで印象が変わるわ。」
「作業バッグに、道具一式入れといたから。使い方は後で説明するわね。」
「ほら、さっさと着替える。はい、ヘッドセットもして、ウエストポーチに携帯入れて忘れずに」
「え、でも」
とか言いながらも、なんとなく勢いに押されて着替え始める俺。
「じゃ、よろしくね」といって事務所を追い出された俺。
「どうするかなあ。現場なんて怖いしなあ。どっちかというとデスクワークのほうが」
と独り言を言う俺に、ヘッドセットから突込みが入る。
「こらこら、ぶつくさ言ってないでさっさと車でポーアイまで行って。向こうに到着するまでに作戦考えとくから。」
という江島さんの声にしぶしぶ車を走らせる俺であった。

「このブロックのはずだよな。」
倉庫のあるブロックの端で車を止めた。
カーナビの地図で現在位置を確認し、携帯の地図も確認する。
広い大きな倉庫と巨大なクレーン、広く空いた護岸へ通じる空き地が見える。
「そこから先は、車だと見つかるから、歩きでよろしく」と江島さんの声。
「了解」と俺も答える。

どうやらあたりに人気は無さそうだ。
「人影はなさそうだけど」
「じゃさっさと倉庫のほうに向かってね」

慎重に物陰をつたって倉庫あるほうに進んでいく。

「ありゃ、道路から倉庫まで広い駐車スペースで隠れるところがないよ」
「そう、じゃ、あんまりこそこそせずに、堂々と倉庫まで歩いてね」
背中が丸まっていた俺は、背筋を伸ばして、隠れる物陰がないのを気にしながらも怪しまれないように進む。
一番近くの倉庫に近づくと、大きなシャッターの隣に人が出入りするための扉を見つけた。
「北西の角に扉があるよ」
「扉に窓はある?」
「ああ、あるけど」
「じゃ、扉の窓の中から見られないように近くまで進んで、窓の中を鏡を使って確認してね」
江島さんの用意してくれた作業バッグの中に100均で売ってそうな折りたたみの手鏡がある。
「ふーん」
と思いながら、扉の正面を大きく迂回して扉に近づいた。
折りたたみの手鏡を開いて、扉の窓に近づけ、中の様子を探ってみる。
「うん、誰もいないみたいだ」
「そう。念のため、自分お目でも確認してね」
窓の端からそっと確認してみる俺。
「誰もいないみたいだ。何もなくてがらーんとしている」
「じゃ、扉開けてみて。音がしないように気をつけてね」
そっと扉を開けてみる。鍵はかかっていなかった。

「中に入ったよ。倉庫の中はいくつかのブロックに区切られているみたい」
手前のブロックには何もなくフォークリフトで運ぶのに使う木の土台がいくつか積み上がられているだけだ。

「あれ?おかしいな」
「どうしたの?」
「いや、何か人がいる場所があるかと思ったけど、何もないから変だなって」
と何もないことを不振に思いながら、次のブロックに行く。

次のブロックもそこも荷物はほとんどない。
よく見るとこのブロックの奥の壁に何かある。
倉庫の壁にプレハブの小屋のようなものが立っているようだ。
建物の内側に茶色くくすんだ同系色の小屋だからか、すぐには気が付かなかった。
「これか?」
「何か見つけたの?」
と問いかける江島さんに小声で
「プレハブの小屋が倉庫の中にあるのを見つけたんだ」
「あら、目いっぱい怪しいわね。きっとそれよ。まずはプレハブの状況を教えて」

俺は慎重に小屋の方に移動しながら話を続けた。
「倉庫の内側に茶色のプレハブ小屋がたぶん、3棟横に連結された形であるよ。倉庫の向こう側の壁とプレハブの壁はくっついているみたいだ。」

足音が妙に反響して誰かに聞かれないか気になる。

あれ?妙だ
「窓があったみたいだけど、そこが鉄板でふさがれてるみたい。ボルトで固定されてるよ」
「軟禁目的でふさがれたのかもね。プレハブの中から見られないか注意してぐるっと周囲を見てもらえる?入り口とか、窓とか開いている部分を確認してちょうだい」
「了解」

江島さんの指示に従って、プレハブの周囲をぐるっと回ってみる。
どの窓も塞がっているようだ。

イナバ物置 ドマール FX-80HDL-2 土間タイプ 一般型 2連棟

イナバ物置 ドマール FX-80HDL-2 土間タイプ 一般型 2連棟

ちょっと違うが、倉庫の中に、
プレハブ住宅があるイメージです。

【重機ラジコン】超小型リアルフォークリフト■新品 自動車

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倉庫にはフォークリフトが
つきものです。

プレハブの向こう側の壁は倉庫の壁に接している。
「倉庫の外に出ないと1周できないけどどうする?」
「プレハブの近くに倉庫の扉はあるかしら?」
「ああ、ちょうど倉庫の右側にあるよ」
「じゃ、扉の向こうに気をつけて、倉庫の外側も見てきて頂戴」
「了解」
ここの扉も鍵がかかっていなかった。
扉を開けて倉庫の外側に出る。

「ああ、プレハブと接している部分の倉庫の窓枠がはずれてるよ。そこだけプレハブの外壁が外に出てる。そ換気扇とガスの給湯器がついるよ」
「じゃあ、やっぱり怪しいわね」
「そのすぐ下にはエアコンの室外機も置いてあるよ。ということはお風呂かシャワーもあって、それなりに生活できるってことか」
「そうみたいね」
「どうやら、入り口は、倉庫の内側、左側のプレハブの1カ所のみみたいだよ。」
「じゃ、先ずは中の様子をコンクリートマイクを使って調べてみて。作業バッグにコンクリートマイクとヘッドセットが入っているはずよ」
「了解」
俺は、作業バッグからコンクリートマイクを取り出すと、倉庫の外側からプレハブの壁がむき出しになった部分にコンクリートマイクを当ててみる。そこから伸びたヘッドセットを携帯のヘッドセットとは反対側の耳に架ける。
「あ、テレビテレビの音が聞こえる。他に人の話し声とかは聞こえないよ」
しばらく聞いていたが、変化はなさそうだ。
「変化なさそうだねえ」
と俺が言うと、江島さんは
「じゃ中を覗いてみましょう。換気扇の穴から中が覗けるはずよ」
「え、ちょっと換気扇の穴は高すぎるよ」
「何かそこら辺に足場になりそうなものはないの?」
「フォークリフトの木製パレットがあるから高さだけなら問題なけど、覗くのは難しくない?」
という俺に江島さんは、
「作業バッグにファイバースコープも入れているから大丈夫って。さっさと足場を作ってね。目安は、足場の上に座って、換気扇の穴が目の前に来るぐらいまで積んでね」
「え、結構な高さまでつむんだな」
と俺はしぶしぶ周辺の木製パレットを移動して換気扇の下に積み上げていく。
1.5mほど積み上げて、パレットに座った状態で換気扇に届く高さになった。
「パレットを積み上げたよ。上に座って、換気扇の穴が目の前にある。穴は覗けるけど、この角度だと、天井しか見えないよ。どうしたらいいの?」
という俺に対して、江島さんは
「じゃ、指にハンカチを巻いて、一気に換気扇の羽根を止めて、ハンカチで固定してちょうだい」
「うわー痛そう」
という俺に、江島さんは、
「一気に止めればそれほど痛くないは、覚悟を決めて、一気にね」
まったく、人事だと思って。
俺は、作業かばんの中からハンカチを2枚取り出し、1枚を指に巻いて換気扇の羽根を一気に止める。急に風切音が消えた。
静かになった周囲には、エアコンの運転音とテレビの声が聞こえている。話し声は聞こえない。
気づかれていない様だ。
換気扇の隙間から覗くが人の気配は無い。手早くもう1枚のハンカチで換気扇の羽根を固定した。
「換気扇止めたよ」
「じゃ、作業かばんからファイバースコープを取り出して、カメラとヘッドマウントディスプレイにつないで装着してね」
作業かばんからファイバースコープとカメラを取り出して、接続する。さらにカメラの出力端子に、ヘッドマウントディスプレイに接続する。
このヘッドマウントディスプレイは薄型でかけていても周囲の様子がわかる。
ファイバースコープを慎重に換気扇の隙間に入れて中の様子を伺った。
所長の知り合いの内視鏡を作っているメーカーに特別に作ってもらったファイバーの先の向きが手元で操作できるすぐれものらしい。
内視鏡ほどの解像度はないが、640×400ぐらいの解像度はでる。

「準備ができたら、ファイバースコープの先端を換気扇の穴の隙間に入れて見てちょうだい」
言われたとおりにして見てみると、右奥の部屋の隅にテレビがあり、1人の下着姿の女性が横になっているのが見えた。
「あ、見えたよ、女の人が真ん中の部屋に下着姿で横になっているよ。向こう向きだから誰かわかんないけど。動きもないし、寝てるかも」
「了解。寝てそうでも油断は禁物よ。音を立てないように気をつけて。さっきのコンクリートマイクも壁に固定して聞いてみて」
コンクリートマイクをガムテープで固定するとまた、テレビの音が聞こえてきた。
どうやらこの部屋はリビング兼キッチンのような感じに使われているようだ。
右半分が絨毯の上に両方の部屋との間には扉があるが、入り口側の方は扉が開いている。
「入り口側の扉が開いていて、中がちょっとだけ見えるけど、誰かいるみたいで、床に影が動いているように見えるよ」
しばらく部屋の中を観察していた。
携帯の着信音が鳴った。一瞬自分かと思ってひやっとしたが、どうやら入り口側の部屋から聞こえてくる。

フジミ Dup-35 1/32 パレット プラモデル(U9574)

フジミ Dup-35 1/32 パレット プラモデル(U9574)

滝沢のおっちゃんは、こいつ(フォークリフトのパレット)をがんばって積み上げました。




≪#9へ続く≫
この小説はフィクションであり、実在する国、団体や事象、法律など実在の世界にあるものとは、一切関係ありません。
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2009年11月13日金曜日

第2話「家出少女救出作戦」#7

この1週間2週間分のメールの受信履歴を見るが見つからない。DMが多すぎる。見逃したかもしれない。
じゃあ、検索してみようと、「出航」で検索するが、該当なし。
「出航」だから、、、船だとして、どこの埠頭から出航するのか知りたいから、「埠頭」で検索してみる。
ビンゴ!!
1週間前に来たメールに含まれていた。タイトルが英文だったのでDMと勘違いして見逃していた。

来週火曜日に第7埠頭に接岸する。
出発は再来週の金曜日の予定だ。
貨物の準備を木曜日中に頼む。

といった簡素な文面だ。
「江島さん、やつら、船を使って何かを運ぶようですね。今週の火曜日に着いた船に何かを載せて、来週の金曜日に出航する予定みたいです。」
「どこの港か判らない?」
「このメールだけでは判んないですね。第7埠頭とだけは判りましたけど。でも、スケジュールにポーアイ倉庫ってあったから、神戸じゃないかな?」
「ありがとう。それだけあれば、判るかもしれない。」
江島さんは港湾事務局に問い合わせて、該当する港は神戸ポートアイランド、船籍は中国、船名「天祥108」で、来週金曜日21:00出航で次の入港先は香港であることが判った。急いで、所長に連絡を入れて調べたことを伝えた。


香港の夜景は綺麗ですねえ。



これがうわさの香港製iphone。
DocomoのSIMで動くとの噂が!!


「江島くん、順平くん、こりゃ大事になってきたな。人身売買かも知れない。警察を動かすにはもう少し証拠が欲しいな。外国船内は捜索が難しいんだ。船に入られる前に何とか押さえたい。」
「江島くん、大沢探偵事務所に連絡して応援を頼んでくれ。第七埠頭の船の監視だ、携帯ヘッドセットを渡して常時通信状態で、船の出入りと状況を漏れなく報告するように依頼してくれ。」
「順平くんにも、もう少し調べてもらってくれ、例の「ポーアイ倉庫」について何か手掛かりがないか?」
「判りました所長。順平君に伝えます。大沢探偵事務所に連絡して、準備が整ったらまた連絡します」
絵島さんは、電話を切り
「順平くん、所長から、もっと例のポーアイ倉庫について調べてって」
「ああ、了解。もう調べ始めてるよ」

もとより「ポーアイ倉庫」は調べるつもりであった。
また、メールを「ポーアイ倉庫」で検索してみる。「ポーアイ倉庫」そのものではヒットはないが「ポートアイランド」「倉庫」で何件かのメールがヒットした。
一番古いメールに詳細情報があった。

ポートアイランドの丸山物産の倉庫の一部を借りることができた。
住所は、港島南町4-○-101だ。空港島に渡る橋の手前を左折し、突きあたりのブロックだ。
元々倉庫の作業員用の宿泊施設で台所、シャワーなどもついているのでそのまま使える。
入口は1箇所だから、窓を潰して空調を入れれば良い。今週中に作業を終えること。

「江島さん、倉庫見つけたよ。港島南町4-○-101南鱈物産の倉庫の一部だって」
「了解。確認して所長に連絡するわ」
「あら、南鱈物産って2年前に倒産してるわね。今は債権者団体の所有物ね。債権者の筆頭は丸肥銀行よ」
「ということは、事実上だれにも使われていない放置状態ってことか。それをやつらが見つけて無断で使ってるって訳か。」
「そうみたいね。あら?所長?携帯に出てくれないわね」



ポーアイには、IKEAがあります。
広いですよ。

建築設計資料 77  工場・倉庫 2 [本]

建築設計資料 77 工場・倉庫 2 [本]

港の倉庫はあまりにも大きい。


≪#8へ続く≫
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2009年11月10日火曜日

第2話「家出少女救出作戦」#6

10分後、もうすぐ事務所に着く手前で所長から連絡が入った。
「俺だ。」
「さっき高速神戸に着いた。地下をJR神戸駅方面に歩いている。電車の中で、携帯に何か熱心に入力していたから、多分アンケートに入力してたんだろう。あ、今携帯をしまった。送るのならば、もう送ったはずだ」
「了解です。もうすぐ事務所に戻るんで、確認します。江島さんも早く帰って着替えたいそうですよ。」
「そうか。でも江島くんのキャンギャル姿、もう少し見ていたいなあ」
隣で聞こえていたのか絵島さんがおれの携帯をひったくる。
「所長、何いってんのよ。こんなかっこじゃ仕事になんないでしょ。」
「かっこなんかより、業務が優先だ!順平くんのフォローを頼むぞ」
「所長!!着替えさせてよ!もう。」
「おっと、見失うところだ。いったん電話切るよ。」

そうこうしていると、ワゴン車は事務所についた。急いで事務所にはいったら、奴からの登録を確認だ。
昨日作ったWebサイトに先ほど送った返信メールで誘導しているはず。
奴はアンケートページに入力し、そこに会員IDとして「PCのメールアドレス」と「パスワード」を入力しているはずだ。その登録内容は用意した別のWebメールへ送られているはずだ。
祈るような気持ちで、ノートPCを立ち上げ、Webメールにアクセスする。静かな事務所にハードディスクのかすかなアクセス音が響く。
「ねえ、どう?」
「もう少し、今Webメールにログインするとこ。」
もどかしく、パスワードを入力すると、受信箱に新着メールが来ていることを表すアイコンが付いていた。
「あった、あった!!」
「登録のお知らせ」というタイトルのメールをクリックすると登録した内容が表示された。
「こいつ案外、マメだね。」
見ると、登録箇所は、しっかりと入力されている。「その他ご意見・ご要望」の欄もしっかり埋められている。
よほど几帳面なのか、元々懸賞マニアなのか。こういうアンケートを作る企業にとっては優秀と思われる答えが書かれている。
その中で注目するのは、メールアドレスとパスワード。
「よし、有名なWebメールのメールアドレスだ。これなら使えるぞ。パスワードもしっかり入ってる。」
「でも、そのパスワードってそのメールアドレス用じゃないでしょ。」
ま、たしかにそのとおりだ。ただ、たくさんのパスワードを覚えるのは誰でも苦手なはず。

まず、このメールアドレスを見ると有名な検索サイトのWebメールサービスで発行されたものとわかる。つまり、このメールアドレスのパスワードが判れば、その検索サイトが持っているその他のサービスにもログインできる可能性があるということだ。
今、奴をだまして入力させた会員登録情報に奴のメールアドレスと、このサービスで使用するパスワードを入力させた。
世の中の6割から7割の人がパスワードを使い回ししている現状がある。つまり、今入力したパスワードが、このメールアドレスのパスワードと一致している可能性があるということだ。
検索サイトのWebメールサービスのページを開き、IDとして奴のメールアドレスを入れる。そして会員登録で使用したパスワードを入力してやる。案の定ログインできた。
「まあ、普通こんなもんだよな」
驚きもしなかった。なぜなら、実際、順平自身も何かの会員登録でWebメールで使用しているパスワードと同じものを入力した経験がある。
パスワードは個別に管理しないと、やっぱり、それってヤバいなと、改めて思った。
メールが見れるのは判った。
他に何が見れるか確認してみた。
ドキュメントは使用していないみたいだ。
カレンダに登録がある。一昨日、にポーアイ倉庫?来週の土曜日に出航?何だ?
「江島さん。奴のスケジュールが覗けたんだけど、一昨日に「ポーアイ倉庫」と来週の金曜日に「出航」って予定が入っている。」
「何かしら?所長に連絡入れるわ。」
「よろしく。こっちももう少し探してみる。」
今度は、メールを調べてみる。
未読のものはダイレクトメールばかりだから無視するとして、他に何か手掛かりになりそうなメールはないかな?

■SLEEPWAY■電動RCスケール貨物船キット  1/50 10-ハッチ沿岸貿易船  【ラジコン ボート】

■SLEEPWAY■電動RCスケール貨物船キット 1/50 10-ハッチ沿岸貿易船 【ラジコン ボート】

神戸港に入港している貨物船

ジグソーパズル:950ピース:神戸港の夜景

ジグソーパズル:950ピース:神戸港の夜景

神戸の夜景はきれですね


≪#7へ続く≫
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2009年11月6日金曜日

第2話「家出少女救出作戦」#5

「OK!うまく行ったね」
江島さんは、
「はあ、疲れた。もう今日だけだからねこんなかっこするの。」
と言いながらジャンパーを羽織った。眉間の皺が戻っている。
「えー、可愛いのにもったいない」
「何言ってるのよ。順平くんも所長と一緒ね。まったく男って」

その頃、ティッシュを受け取った高須は、
「なんか、すげえきれいな姉ちゃんだったな。用事がなけりゃ、絶対ナンパするんだけどな」
「そういえば、何の宣伝だ?缶コーヒーと、映画のコラボ企画か?おう、アンケートでもれなく1000円の商品券で、抽選で旅行券か。当ったら換金できそうだな。今月厳しいし、ちょっとまじめにやってみるかな?」
とポケットから携帯を取り出し、バーコードを読み込む。
メールアドレスが登録されていたので、指示通りに空メールを送った。


今、一番ほしいギフトカードはiTunesのカードですね。



お掃除が、ギフトカードであるんですねえ。
これもらったら、結構うれしいかも。

「俺だ」
所長からの連絡だ。
「今駅のホームだ。幸いまだティッシュは持っている。お、携帯を取り出した。」
「ティッシュの広告に携帯のカメラを向けている。多分アクセス行くぞ。」
「了解。返信の準備します」
俺は急いで、近くのコインパーキングにワゴン車を入れ、助手席の足下に隠した鞄からノートPCを取り出して立ち上げた。データアクセスカードでダイアルアップし、あらかじめ用意したWebメーラーにアクセスすると、案の定、メールが届いていた。
「あ、メール来てます。今返信しますね。」
急いで、あらかじめ用意したメールを返信した。
「今、返信しました。」
と返事すると、
「お、奴が携帯を取り出した。メールを受信したようだ。くそ、電車が来たぞ、しばらくは電波がとぎれる。一旦切るぞ。また電車を降りたら連絡する」
と言って電話が切れた。

高須は、携帯を開けてメールを確認した。
「お、返信が来たぞ、えーと、このリンクかな。あ、そうみたい。ティッシュのチラシと同じ感じのアンケートページが出た。」
「携帯の割に凝った画面だな。映画は金のかけ方が違うねえ。」
「ありゃ、電車がきたか。ま、ちょうどいいや電車で移動してる間に入力するか。」
高須は電車のシートに座ると、黙々と携帯電話のアンケートページに打ち込みを行った。

順平は、携帯を切ると、ワゴン車のエンジンをかけた。
今頃奴は俺が夕べ用意したキャンペーンサイトにアクセスしているはずだ。
今は、電車の中だから、アンケートに入力しているはずだ、実際にアクセスするのは、駅に着いてからだ。まだ時間があるから、コインパーキングを出て事務所に行った方が良さそうだ。
ノートPCをスリープして助手席に投げると、
「一旦事務所に戻るよ」
「ええ、早く着替えたいから、その方が良いわ」
「じゃさっさと帰ります。」

新開地ダウンタウン物語 Go to the down town   [本]

新開地ダウンタウン物語 Go to the down town [本]

新開地は神戸でもちょっと異色な感じのする街です。

わいらの新開地  /林喜芳/著 [本]

わいらの新開地 /林喜芳/著 [本]

昔の新開地は知らないけど、なんか懐かしい感じがする。

実践コインパーキング事業 事業の魅力、経営の実態と法的諸問題の解決 [本]

実践コインパーキング事業 事業の魅力、経営の実態と法的諸問題の解決 [本]

最近、空き地がのみなみコインパーキングになってますね。
儲かっているんですかね?


≪#6へ続く≫
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2009年11月3日火曜日

第2話「家出少女救出作戦」#4

しばし車での待機。隣には江島さん。緊張する。
「江島さん、やつの顔は覚えたかい?」
「ええ、ばっちりよ。所長から動画も見せてもらったから間違えないと思うわ。」
「そういえば、昨日はずいぶん機嫌が悪かったね。」
「そういう日もあるわよ」
「今日は普通そうで安心した。」
「そう?そうでもないわよ。こんなかっこしてるから、そっちに気になってるだけよ。さて、念のためメイクを再チェックと。」
隣でコンパクトを開けてチェックする江島さんを珍しそうに見ていた。

「順平くん、奴が動き出した。たぶん5分ぐらいでそっちに行くぞ。」
「了解。準備に入ります。」
「江島さん。聞いての通りだ。行くよ。」
江島さんは軽くうなずくと、ジャンパーと巻きスカートを取って、キャンギャルに戻った。
俺は段ボール箱、江島さんはティッシュの入った手提げ付きのカゴを持って、2番出口に向かった。
出口の脇に段ボール箱を置いて、ティッシュの入ったカゴを持ったキャンギャルがその横に立てば、どこから見てもティッシュ配りに見える。
「やつは、紺のポロシャツに濃い茶色の綿パンだ、靴は茶色の皮のスニーカー、手には茶色の手提げ鞄を持っている」

トタンテレコスキッパーポロシャツ★メンズキレイめお兄系マスト!

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奴の服装はこんな感じ

吉田カバン ポーター/ヒート・トート(ヨコ型)

吉田カバン ポーター/ヒート・トート(ヨコ型)

こんな鞄を持っている

所長からの続報が入る。
「了解」
江島さんがスタンバイしてると物欲しそうな男たちが近づくが、俺がブロックして彼女には無視してもらう。
ちょっと移動しながらの方が逃げやすいかもと、江島さんに動くように指示すると男たちもつられて動く。それを俺がブロックしていく。ようやくあきらめたらしいが、新たな男が江島さんに群がってくる。またもやブロック。
たしかに、君たちの気持ちは良く判る。キャンギャル姿の江島さんはとっても可愛い。だが、仕事のじゃまだ!退いてくれ!
そうこうしてると所長から連絡。
「江島くん、もうすぐ駅だ、次の角を回ったら駅が見えるはずだ。角をまわるまで後10秒、5、4、3、2、1、回った。」
すると、今まで眉間に皺を寄せていた江島さんが、一転して天使のような笑顔に変わった。
「はい、ただいま、新製品のキャンペーンです。今すぐ、アンケートにお答えください。商品券をはじめとした素敵なプレゼントを実施中です。」
普段より1オクターブ高い、声優似の声に切り替わった。
「こいつ女優だな。」ぼそっと順平はつぶやいた。
俺は江島さんの背後に何気なく立って江島さん越しに奴の姿を探した。
紺のポロシャツが見えた。俺は視線をはずしながら、
「前方20mぐらいに紺のポロシャツが見える」
と江島さんに伝えた。
江島さんは、聞こえていないかのごとく、返事もせずに、ティッシュ配りに集中している。
「あと、10m」
あとは、江島さんに任せるだけだ。
江島さんは一瞬手を止めて、左手に赤いティッシュを持ち替えた。
他からティッシュを要求される手には右手のカゴをぶら下げた方の手を使って、
「はいどうぞ。アンケートお願いします」
器用にオレンジ色のティッシュを配っている。
紺のポロシャツを着た高須が近づいた時、満面の笑みを浮かべて、
「はい、携帯アンケートでもれなくプレゼントですよ。どうぞ」
と、高須は、顔を上げて江島さんの顔を見た。一瞬動きが止まり、江島さんを見つめて、ようやくティッシュを受け取った。
やった!思わず俺はガッツポーズ。
高須は、名残惜しげに、後ろを振り返りながら地下鉄の階段に消えていった。
所長がその後ろをついて行く。
1タイミングおいて、
「江島さん長居は無用だ。急いで撤収。」
引き返してくる可能性を考えるともう少し粘った方が良いが、長居すると最初の頃に配ったティッシュの2次元バーコードにアクセスした人からの苦情が来かねないので、早々に退散だ。
俺は段ボールを抱えると、江島さんの前を駆け出した。
ワゴン車に飛び込むと、エンジンをかけるやいなや急発進した。


ステップワゴンって意外に大きい。
路上の長時間張り込みはこいつを使う。
ようやく慣れてきたよ。



≪#5へ続く≫
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