2009年11月17日火曜日

第2話「家出少女救出作戦」#8

「ええ?どういうこと?」
問いかける俺に、首を振る江島さん。
「呼び出し音は鳴るけど、出ないのよ。今、手が離せないのかもしれないわ」

「どうするの?せっかく手がかりが見つかったのに」
という俺に対して、江島さんはにっこりと微笑みながら
「あら、ここに立派なエージェントがいるじゃない」
と、俺の肩を叩いた。
「え、俺?そんな無理だよ」
という俺を無視して、江島さんは
「えっと、港湾なら作業着のほうが目立たないから、紺の作業着一式ね。」
と、倉庫から変装セットを持ってきた。
「帽子も用意したから、太目のフレームのメガネで印象が変わるわ。」
「作業バッグに、道具一式入れといたから。使い方は後で説明するわね。」
「ほら、さっさと着替える。はい、ヘッドセットもして、ウエストポーチに携帯入れて忘れずに」
「え、でも」
とか言いながらも、なんとなく勢いに押されて着替え始める俺。
「じゃ、よろしくね」といって事務所を追い出された俺。
「どうするかなあ。現場なんて怖いしなあ。どっちかというとデスクワークのほうが」
と独り言を言う俺に、ヘッドセットから突込みが入る。
「こらこら、ぶつくさ言ってないでさっさと車でポーアイまで行って。向こうに到着するまでに作戦考えとくから。」
という江島さんの声にしぶしぶ車を走らせる俺であった。

「このブロックのはずだよな。」
倉庫のあるブロックの端で車を止めた。
カーナビの地図で現在位置を確認し、携帯の地図も確認する。
広い大きな倉庫と巨大なクレーン、広く空いた護岸へ通じる空き地が見える。
「そこから先は、車だと見つかるから、歩きでよろしく」と江島さんの声。
「了解」と俺も答える。

どうやらあたりに人気は無さそうだ。
「人影はなさそうだけど」
「じゃさっさと倉庫のほうに向かってね」

慎重に物陰をつたって倉庫あるほうに進んでいく。

「ありゃ、道路から倉庫まで広い駐車スペースで隠れるところがないよ」
「そう、じゃ、あんまりこそこそせずに、堂々と倉庫まで歩いてね」
背中が丸まっていた俺は、背筋を伸ばして、隠れる物陰がないのを気にしながらも怪しまれないように進む。
一番近くの倉庫に近づくと、大きなシャッターの隣に人が出入りするための扉を見つけた。
「北西の角に扉があるよ」
「扉に窓はある?」
「ああ、あるけど」
「じゃ、扉の窓の中から見られないように近くまで進んで、窓の中を鏡を使って確認してね」
江島さんの用意してくれた作業バッグの中に100均で売ってそうな折りたたみの手鏡がある。
「ふーん」
と思いながら、扉の正面を大きく迂回して扉に近づいた。
折りたたみの手鏡を開いて、扉の窓に近づけ、中の様子を探ってみる。
「うん、誰もいないみたいだ」
「そう。念のため、自分お目でも確認してね」
窓の端からそっと確認してみる俺。
「誰もいないみたいだ。何もなくてがらーんとしている」
「じゃ、扉開けてみて。音がしないように気をつけてね」
そっと扉を開けてみる。鍵はかかっていなかった。

「中に入ったよ。倉庫の中はいくつかのブロックに区切られているみたい」
手前のブロックには何もなくフォークリフトで運ぶのに使う木の土台がいくつか積み上がられているだけだ。

「あれ?おかしいな」
「どうしたの?」
「いや、何か人がいる場所があるかと思ったけど、何もないから変だなって」
と何もないことを不振に思いながら、次のブロックに行く。

次のブロックもそこも荷物はほとんどない。
よく見るとこのブロックの奥の壁に何かある。
倉庫の壁にプレハブの小屋のようなものが立っているようだ。
建物の内側に茶色くくすんだ同系色の小屋だからか、すぐには気が付かなかった。
「これか?」
「何か見つけたの?」
と問いかける江島さんに小声で
「プレハブの小屋が倉庫の中にあるのを見つけたんだ」
「あら、目いっぱい怪しいわね。きっとそれよ。まずはプレハブの状況を教えて」

俺は慎重に小屋の方に移動しながら話を続けた。
「倉庫の内側に茶色のプレハブ小屋がたぶん、3棟横に連結された形であるよ。倉庫の向こう側の壁とプレハブの壁はくっついているみたいだ。」

足音が妙に反響して誰かに聞かれないか気になる。

あれ?妙だ
「窓があったみたいだけど、そこが鉄板でふさがれてるみたい。ボルトで固定されてるよ」
「軟禁目的でふさがれたのかもね。プレハブの中から見られないか注意してぐるっと周囲を見てもらえる?入り口とか、窓とか開いている部分を確認してちょうだい」
「了解」

江島さんの指示に従って、プレハブの周囲をぐるっと回ってみる。
どの窓も塞がっているようだ。

イナバ物置 ドマール FX-80HDL-2 土間タイプ 一般型 2連棟

イナバ物置 ドマール FX-80HDL-2 土間タイプ 一般型 2連棟

ちょっと違うが、倉庫の中に、
プレハブ住宅があるイメージです。

【重機ラジコン】超小型リアルフォークリフト■新品 自動車

【重機ラジコン】超小型リアルフォークリフト■新品 自動車

倉庫にはフォークリフトが
つきものです。

プレハブの向こう側の壁は倉庫の壁に接している。
「倉庫の外に出ないと1周できないけどどうする?」
「プレハブの近くに倉庫の扉はあるかしら?」
「ああ、ちょうど倉庫の右側にあるよ」
「じゃ、扉の向こうに気をつけて、倉庫の外側も見てきて頂戴」
「了解」
ここの扉も鍵がかかっていなかった。
扉を開けて倉庫の外側に出る。

「ああ、プレハブと接している部分の倉庫の窓枠がはずれてるよ。そこだけプレハブの外壁が外に出てる。そ換気扇とガスの給湯器がついるよ」
「じゃあ、やっぱり怪しいわね」
「そのすぐ下にはエアコンの室外機も置いてあるよ。ということはお風呂かシャワーもあって、それなりに生活できるってことか」
「そうみたいね」
「どうやら、入り口は、倉庫の内側、左側のプレハブの1カ所のみみたいだよ。」
「じゃ、先ずは中の様子をコンクリートマイクを使って調べてみて。作業バッグにコンクリートマイクとヘッドセットが入っているはずよ」
「了解」
俺は、作業バッグからコンクリートマイクを取り出すと、倉庫の外側からプレハブの壁がむき出しになった部分にコンクリートマイクを当ててみる。そこから伸びたヘッドセットを携帯のヘッドセットとは反対側の耳に架ける。
「あ、テレビテレビの音が聞こえる。他に人の話し声とかは聞こえないよ」
しばらく聞いていたが、変化はなさそうだ。
「変化なさそうだねえ」
と俺が言うと、江島さんは
「じゃ中を覗いてみましょう。換気扇の穴から中が覗けるはずよ」
「え、ちょっと換気扇の穴は高すぎるよ」
「何かそこら辺に足場になりそうなものはないの?」
「フォークリフトの木製パレットがあるから高さだけなら問題なけど、覗くのは難しくない?」
という俺に江島さんは、
「作業バッグにファイバースコープも入れているから大丈夫って。さっさと足場を作ってね。目安は、足場の上に座って、換気扇の穴が目の前に来るぐらいまで積んでね」
「え、結構な高さまでつむんだな」
と俺はしぶしぶ周辺の木製パレットを移動して換気扇の下に積み上げていく。
1.5mほど積み上げて、パレットに座った状態で換気扇に届く高さになった。
「パレットを積み上げたよ。上に座って、換気扇の穴が目の前にある。穴は覗けるけど、この角度だと、天井しか見えないよ。どうしたらいいの?」
という俺に対して、江島さんは
「じゃ、指にハンカチを巻いて、一気に換気扇の羽根を止めて、ハンカチで固定してちょうだい」
「うわー痛そう」
という俺に、江島さんは、
「一気に止めればそれほど痛くないは、覚悟を決めて、一気にね」
まったく、人事だと思って。
俺は、作業かばんの中からハンカチを2枚取り出し、1枚を指に巻いて換気扇の羽根を一気に止める。急に風切音が消えた。
静かになった周囲には、エアコンの運転音とテレビの声が聞こえている。話し声は聞こえない。
気づかれていない様だ。
換気扇の隙間から覗くが人の気配は無い。手早くもう1枚のハンカチで換気扇の羽根を固定した。
「換気扇止めたよ」
「じゃ、作業かばんからファイバースコープを取り出して、カメラとヘッドマウントディスプレイにつないで装着してね」
作業かばんからファイバースコープとカメラを取り出して、接続する。さらにカメラの出力端子に、ヘッドマウントディスプレイに接続する。
このヘッドマウントディスプレイは薄型でかけていても周囲の様子がわかる。
ファイバースコープを慎重に換気扇の隙間に入れて中の様子を伺った。
所長の知り合いの内視鏡を作っているメーカーに特別に作ってもらったファイバーの先の向きが手元で操作できるすぐれものらしい。
内視鏡ほどの解像度はないが、640×400ぐらいの解像度はでる。

「準備ができたら、ファイバースコープの先端を換気扇の穴の隙間に入れて見てちょうだい」
言われたとおりにして見てみると、右奥の部屋の隅にテレビがあり、1人の下着姿の女性が横になっているのが見えた。
「あ、見えたよ、女の人が真ん中の部屋に下着姿で横になっているよ。向こう向きだから誰かわかんないけど。動きもないし、寝てるかも」
「了解。寝てそうでも油断は禁物よ。音を立てないように気をつけて。さっきのコンクリートマイクも壁に固定して聞いてみて」
コンクリートマイクをガムテープで固定するとまた、テレビの音が聞こえてきた。
どうやらこの部屋はリビング兼キッチンのような感じに使われているようだ。
右半分が絨毯の上に両方の部屋との間には扉があるが、入り口側の方は扉が開いている。
「入り口側の扉が開いていて、中がちょっとだけ見えるけど、誰かいるみたいで、床に影が動いているように見えるよ」
しばらく部屋の中を観察していた。
携帯の着信音が鳴った。一瞬自分かと思ってひやっとしたが、どうやら入り口側の部屋から聞こえてくる。

フジミ Dup-35 1/32 パレット プラモデル(U9574)

フジミ Dup-35 1/32 パレット プラモデル(U9574)

滝沢のおっちゃんは、こいつ(フォークリフトのパレット)をがんばって積み上げました。




≪#9へ続く≫
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